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リーガルソーシャルワークとは何か?「リーガルソーシャルワークシンポジウム~福祉と司法の連携による権利擁護を考える」に参加してきました。

 皆さんは「リーガルソーシャルワーク(司法ソーシャルワーク)」という考え方をご存じでしょうか?

 まだ新しい言葉なので、明確な定義がある訳ではありませんが、(私の理解では)問題のある生活環境や精神的・身体的な障がいなどを抱える方々が直面する様々な問題(福祉、医療、公的扶助、子育てなど)を解決するために、弁護士などの司法の専門家が行政や福祉機関等の関係機関と連携して、それぞれの機関が得意とする分野のノウハウを活かしながら、抜本的な問題解決に向けて総合的な支援を行うという活動です。

 弁護士は、法律の専門家として罪を犯してしまった人(被疑者・被告人)や、多額の借金に苦しむ人(多重債務者)、加齢や精神障害により判断能力が低下して消費者被害に遭ったり、生活自体ができなくなっている人らの話を聴き、法的観点から解決策を考え、法律を駆使してその人が直面している個別の問題を解決することを基本的な業務としています。

 そのために、具体的には刑事裁判で弁護人として活動したり、多重債務解消のために債務整理や破産などの法的整理を行ったり、判断能力が低下した人のサポートをするために成年後見人等として日々活動しています。

 しかしながら、例えば貧困に追い込まれやむなく窃盗に及んでしまった方の弁護人として刑事裁判を担当し、見事、執行猶予判決を得てその人の早期の社会復帰を実現したとしても、犯罪に及んだ根本原因である「貧困」という問題を解決しなければ、その人は再び窃盗に及んでしまうことでしょう。実際一定数の方々はそのような悪い連鎖に陥り、刑務所に入ったり出たりを繰り返す多数の前科を有する累犯犯罪者になってしまっている現実があります。

 多くの弁護士は、そのような被疑者・被告人の方の場合は、目の前の刑事裁判の対応をするだけでは問題の抜本的な解決とはならないこと自体は認識しているので、ボランティア的な活動として生活保護に繋げたり、就職支援をしたりもしています。しかし、個々の弁護士が使える資金・時間・社会資源、そして能力には限界があり、また弁護士の考え方や熱意、人脈や能力等によって、その活動内容・結果には大きな差が出るのが現実です。

 一部の弁護士や社会福祉士等の専門職が、かかる現状を打破すべく、「リーガルソーシャルワーク」という考え方を掲げて、弁護士・裁判所等の司法機関と社会福祉士・病院等の福祉・医療の専門家、市役所・社協等の行政が積極的に連携することにより、問題を抱えた方々の目の前の法律問題を解決するだけでなく、その抜本的な問題を探求・解決することにより、その人がより自分らしく生きることのできる環境を構築する(権利擁護)体制を作ろうと努力しています。

 今日は、そのような「リーガルソーシャルワーク」活動の先駆者であり「NPO法人ほっとポット」代表の社会福祉士藤田孝典氏の基調講演、及び多数の社会福祉士が勤務し「リーガルソーシャルワーク」を実践する法律事務所「岡山パブリック法律事務所」所属の社会福祉士さん、真庭ひまわり基金法律事務所の杉原弁護士等のパネルディスカッションからなるシンポジウムに参加してきました。基調講演ご担当の藤田孝典氏は「下流老人」の著者てしても有名な方です。

 「リーガルソーシャルワーク」という言葉自体は新しい言葉ですが、その根本的な発想及び活動は実は古くから各地の弁護士や司法関係者が依頼者の問題解決のために意識し、実践してきたものともいえます。しかし、今後我が国の高齢化や貧困化が進むにつれ、その重要性は飛躍的に高くなることが予想されます。

 従前の伝統的な発想及び活動に「リーガルソーシャルワーク」という概念付けをすることにより、各弁護士が個人の人脈や才覚で無意識に行っていた活動の社会的意義を再確認すると共に、その実践のための知見や技法を蓄積・類型化し、また人的ネットワークを構築することにより全ての法律家が実践できるものになっていくことが期待されます。

 本シンポジウムでは各地方における専門家が直面する悩み、それを解決するための様々な活動や工夫が多数紹介され、素直に共感できる部分が多く、とても勉強になりました。

 刑事弁護や成年後見を担当していると、福祉の専門家の意見を聞き、その協力を得たいと思うことが多々あります。

 しかし、特に刑事被告人(特に殺人や放火等の重大犯罪の場合)には、福祉の関係者からも敬遠されてしまうことが多く、弁護士としてもどこに協力をお願いしたらよいのか迷うことが多々あります。

 「リーガルソーシャルワーク」の考え方が司法関係者及び福祉関係者、行政の各所に普及して、関係機関の連携がスムーズに取れるようになれば、そのような迷いも解消されるかもしれません。私も法律家のはしくれとして、関係機関の連携により社会的に弱い立場の方々の根本的な問題解決が実現でき、皆が自分らしく生きられる社会が実現できるよう微力ながら尽力したいと思う一日でした。

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